「歯」を利用した再生医療

安心安全な再生治療を目ざして近年、医療の世界では、細胞を利用して組織を再生させたり身体機能を回復させる「再生医療」が注目されています。それは歯科の分野においても同様で、自分自身の歯や歯髄細胞を保存し、将来の治療に役立てる技術の研究が進んでいます。

歯髄細胞バンクが再生医療のカギに

当院との連携がある鶴見大学歯学部では、親知らずや乳歯に含まれる歯髄細胞を保存する歯髄細胞バンク事業を行っています。
歯科医院で抜歯した歯の中にある歯髄細胞を保管しておくと、再生医療が必要になった時に役に立つことが、研究によって明らかになりました。歯髄細胞は口腔内における疾患にはもちろん、全身疾患にも活用することが可能です。

歯髄細胞が役に立つ理由

  • 抜歯時に採取できるため、多くの人にチャンスがある
  • 採取が手軽で、お身体への負担がほとんどない
  • 歯髄細胞は増殖能力が高く、様々な治療に応用できる可能性がある
  • 硬いエナメル質に守られた歯髄細胞は、遺伝子の損傷が少なく安全

採取した細胞を治療に適したものへと変化させるには準備の時間が必要で、その準備を行う場所として、歯の冷凍保存を行う歯髄細胞バンクが存在します。細胞は若いほど元気で良質です。昔に歯医者さんで抜いた乳歯や“親知らず”を含む永久歯が、いざという時に自分自身やご家族を守ります。

歯髄細胞からiPS細胞の生成も可能に

歯髄細胞からiPS細胞の生成も可能にiPS細胞とは、体細胞に多能性誘導因子を導入し、それを数週間培養することによって作られる多能性幹細胞を指します。iPS細胞には様々な組織や臓器の細胞に分化する能力があり、ほぼ無限に増殖できる特性を持っています。従来は主に皮膚や骨髄から体細胞を採取していましたが、現在では歯髄細胞を利用した方がより効率的にiPS細胞を生成できることが分かっています。

歯科治療によって廃棄される歯は、年間約1,000万本以上にもなります。これらの歯から歯髄細胞を取り出して保存し、必要な時に活用する仕組みが整い始めています。

自家歯牙移植による欠損部の治療

自家歯牙移植による欠損部の治療失われた歯の代わりにインプラントやブリッジを行う必要がありますが、その際に自分自身の歯を移植することができる(自家歯牙移植)のをご存知でしょうか?
歯槽骨と歯根の間でクッションのような役目を果たしている歯根膜には、実は再生機能も備わっています。移植後に骨組織や歯周組織を作り出し、生着させることができれば移植は成功です。移植の対象となる歯は、親知らずや過剰歯のような抜くべくして抜いた歯になります。

インプラントなどの人工歯ではなく、歯根膜を持った元天然歯を移植するため、生体の拒絶反応がなく噛み心地も自然です。ブリッジのように健康な歯を傷つけることもありません。